九州大学大学院理学研究院物理学部門
磁性物理学研究室
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3d電子系

3d遷移金属(鉄族元素)では3d電子も化学結合に関与する.金属では3d電子はエネルギーバンドを形成している.これらの中でわれわれが注目しているのは,磁場をかけない状態では常磁性であるが,磁場をかけると突発的に強磁性に転移する物質群である.絶対零度でこのような現象が起こる場合,磁場がない時はパウリ常磁性体であって,原子に磁気モーメントは存在しないが,磁場が印加されるとバンド分極が誘起され,磁気モーメントが発生する.これを遍歴電子メタ磁性と呼ぶ.一方,ある温度で一次転移的に強磁性から常磁性に相転移する物質群がある(ふつうの強磁性-常磁性転移は二次転移).これらの物質でもキュリー温度直上の常磁性状態で磁場を加えると強磁性が突然発生するので遍歴電子メタ磁性を示す.下図は典型的な遍歴電子メタ磁性体であるCo(S1-xSex)2の磁化曲線と磁化温度曲線である.

磁気熱量効果
磁性体に等温で磁場を加えると磁気モーメントが揃ってエントロピーが減少する.一方,断熱状態で磁場を取り除くと磁性体の温度が低下する.この現象は磁気熱量効果として知られている(下図 左).磁気冷凍はこの磁気熱量効果を用いた冷凍法で,省エネルギーで環境にやさしい冷凍技術であることから近年盛んに研究されるようになってきた.磁気冷凍を実現するには大きな磁気熱量効果を示す物質の開発が不可欠である.2001年ごろ,われわれは強磁性から常磁性へ一次転移する物質が大きな磁気熱量効果を示す可能性があることを指摘し,MnAs1-xSbxが室温において巨大磁気熱量効果を示すことを見出した.この研究成果の意義は2つある.ひとつは一次転移物質が確かに巨大磁気熱量効果を示したこと,もうひとつは3d遷移金属が磁気冷凍材料になりうることを示した点である.それまでは磁気冷凍材料には磁気モーメントの大きい希土類元素を使うのが一般的であった.遷移金属化合物は安価で化学的にも安定なので,磁気冷凍材料の選択肢が大きく拡がったことになる.この論文は現在まで引用回数が600回以上となり,磁気熱量効果の分野に大きなインパクトを与えた.MnAs1-xSbxは毒性元素を含んでいるので実用材料にはなりにくい.現在は第二世代のMn化合物であるMnFeP1-xSix化合物を中心として,材料の性能向上と基礎物性の解明に取り組んでいる.下図右はMnFeP1-xSixRuを添加した場合の磁気エントロピー変化の温度依存性である.

磁場中伝導現象

磁気抵抗やホール効果などの伝導現象も遍歴電子メタ磁性により大きく変化する.ふつう常磁性体から強磁性体に変化すると電気抵抗は一般に減少する.これは磁気モーメントがバラバラな方向を向いているよりも揃っている方が,伝導電子の散乱確率が減るからである.しかし遍歴電子メタ磁性体のCo(S1-xSex)2は強磁性になると電気抵抗が増加する.下の左図はx=0.14のいろいろな温度における磁気抵抗,右図はいろいろな組成の4.2 Kにおける磁気抵抗で,いずれも残留抵抗は差し引いている.この正の磁気抵抗は大変珍しい現象であるが,4.2 Kの磁気抵抗比はもっとも大きいもので+180%くらいあり,きわめて大きい.この原因は強磁性になることによって,電気伝導を担う電子数が減るためであると考えている.磁気抵抗のジャンプの大きさは温度や組成に寄ってほとんど変化しない(x=0.11は一部強磁性が共存しているので変化は小さい).


下図(a)と(b)はx=0.10x=0.13のホール効果の磁場依存性をいろいろな温度で測定したものである.縦軸のホール抵抗率はマイナスの値にとってある.x=0.10は50Kまで強磁性であり,それ以上の高温では常磁性から強磁性への遍歴電子メタ磁性転移が起こる.ホール抵抗率は常磁性領域では負の勾配を持ち,転移磁場で異常ホール効果によって大きくマイナスに変化し,強磁性領域では正の傾きを持っていることがわかる.詳細な解析の結果,正常ホール係数は強磁性でも常磁性でもいずれも正の値を持ち,強磁性領域の値は常磁性領域のそれより数倍大きいことが明らかになった.これは遍歴電子メタ磁性転移によってフェルミ面が大きく変化したことを示している.


参考文献

磁気熱量効果

1. Giant magnetocaloric effect of MnAs1-xSbx, H. Wada and Y. Tanabe, Appl. Phys. Lett. vol. 79 (2001) 3302-3304.

2. Giant magnetocaloric effect of MnAs1-xSbx in the vicinity of first-order magnetic transition, H. Wada, T. Morikawa, K. Taniguchi, T. Shibata, Y. Yamada and Y. Akishige, Physica B vol. 328, (2003) 114-116.

3. Magnetocaloric properties and magnetic refrigerant capacity of MnFeP1-xSix , K. Katagiri, K. Nakamura and H. Wada,J. Alloys Compd. vol. 553 (2013) 286-290.

4. Tuning the Curie Temperature and Thermal Hysteresis of Giant Magnetocaloric (MnFe)2PX (X = Ge and Si) Compounds by the Ru Substitution, Hirofumi Wada, Koshi Nakamura, Kodai Katagiri, Takayuki Ohnishi, Keiichiro Yamashita, Akiyuki Matsushita, Jpn. J. Appl. Phys. vol. 53 (2014) 063001 (4 pages).  

磁場中伝導現象

1. Magnetocaloric Effect and Magnetoresistance due to Itinerant Electron Metamagnetic Transition in Co(S1-xSex)2, Hirofumi Wada, Daichi Kawasaki and Yoshiro Maekawa, IEEE Trans. Magn. vol. 50 (2014) 2501806 (6pages).

 2. High-field transport properties of iItinerant electron metamagnetic Co(S1-xSex)2, Hirofumi Wada, Yoshiro Maekawa and Daichi Kawasaki, Journal of Science: Advanced Materials and Devices (JSAMD) vol. 1 (2016) 179-184.
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